『金陵十三釵 The Flowers of War』 その3

またまた、
この映画、日本語吹き替えも無ければ、日本語字幕も無し。
英語、中国語(舞台が南京なんで南京の方言らしい)の台詞が殆ど。
日本語の台詞は少々。
字幕は英語、簡体字の中国語、スペイン語が在り。
それでもネタバレが多いので、隠しておきます(笑)。

それでは、その3。
第一弾はこれが最後です。



色々その2

1:
アメリカ版と中国版の違い。
目に付いたのは次の箇所。

1-1:
アメリカ版DVDは最初の戦闘シーン、かなりカットされてます。
まず、中国軍が装備で劣っていたため「神風」的自己犠牲攻撃の場面のかなりの部分がありません。
また、次の李教官(佟大為(トン・ダーウェイ))が電柱の電線を銃で撃って切り、日本軍の戦車に倒して感電させ迷走、建物に突っ込み擱座の場面は全編カット。

1-2:
アメリカ版DVDでは、題名、主なスタッフと出演者のクレジットの後、
次の文章が出ます。

In the Autumn of 1937, having conquered Shanghai
Japan turned its sights on the Chinese capital, Nanking.

Marking an especially dark chapter of human history,
over 200,000 people lost their lives in the
relentless battle for control of the city.

Under impossible conditions,
ordinary people fought for their very survival.

This story is inspired by true events.

(これを私が日本語訳しますと)

1937年の秋、上海を制圧した日本は、
その狙いを中国の首都、南京へ向けた。

人類史の中で特に暗い一章を残しながら、
南京の支配を巡る情容赦無い戦闘の中で
200,000人以上が犠牲となった。

絶体絶命の状況の中で、
普通の人々は生き延びるために戦った。

この物語は実際に起きた出来事から生まれた。

1-3:
ジョンと玉墨(ユー・モウ)(猊妮(ニニ))のベッドシーン、中国版では最初のキスのカットで終わり。


2:
感想とか解釈

まず、南京大虐殺。
大虐殺は無くても、虐殺はありました。
特に勉強してるわけではないので自信があるとは言えず、正確な人数は今では不明らしいですが、
英語版に出て来る「200,000」人の死者はありそうな人数の上限の数字とのこと。
半藤一利の『昭和史 1926-1945』(平凡社ライブラリー版)p.198から)によると、

>「通常の戦闘による中国軍将兵の戦死者(戦傷病死を含む)約三万人」
これは戦闘行為によるものゆえ問題にはなりません。
「中国軍将兵の生存者(渡江、釈放、収容、逃亡など)約三万人」
これは無事に南京城から逃げることができたわけですから、オミットでいますね。そして、
「中国軍捕虜・便衣兵などへの撃滅、処断による死者約一万六千人。一般市民の死者約一万五千七百六十人」
 ちなみにこの「撃滅、処断」とは、敗残兵に対する攻撃、市民にまぎれこんだ中国兵の掃討、
さらには捕虜暴動の鎮圧などを指しています。

(引用終わり)

30,000人程が裁判も無く殺された様です(溜息)。

日本軍が虐殺も強姦も当時しなかった「聖なる」軍隊かと言うとそれも無し。
日本軍の蛮行について再び半藤一利の同書より(pp.199~200)

>そうしたことも含め、日本軍はあまりほめられた軍隊ではなかったと思うんですね。
やや後になりますが、昭和十四年(ブログ主注、1939年)二月に日本陸軍省がひそかにつくった「秘密文書第四○四号」というのが残っています。
そこに「事変地より帰還の軍隊、軍人の状況」という、中国から帰国した軍人の聞き書きをした記録があります。
「戦闘間一番嬉しいものは略奪で、上官も第一線では見ても知らぬ振りをするから、思う存分略奪するものもあった」
「ある中隊長は『余り問題が起こらぬように金をやるか、または用を済ましたら後は分からぬように殺しておくようにしろ』と暗に強姦を教えていた」
「戦争に参加した軍人をいちいち調べたら、皆殺人強盗強姦の犯罪ばかりだろう」
 これは、南京事件だけじゃなくて、その後の戦闘でも日本軍の軍紀はかなりゆるんでいたのではなかったかと思うのです。
たいへん評判の悪い「戦陣訓」が昭和十六年(ブログ主注、1941年)につくられますが、
これは、いくらなんでもひどすぎるというので軍紀の紊乱を戒めるためにつくられたものです。

(引用終わり)

石川達三が昭和十三年(1938年)一月に南京へ行き、そこで日本軍の蛮行を目撃し『生きている兵隊』を書き、その通りですな(溜息)。


2-1:
冒頭から中国人の民間人を殺していく日本軍ですが、
日本兵が女性に牙を向けるのは次の二ヶ所。

45分~50分辺り
日本兵が女子学生狩りする場面。
ここは李教官(佟大為(トン・ダーウェイ))の活躍で辱めを受ける女学生はいませんが、
階上から一人落ち死にます。

82分~86分辺り
日本兵がドウとランを凌辱する場面。
ランは撃たれ、その後凌辱、日本兵の台詞から死姦されたのは間違いありません。
オマケに性器に棒を突っ込まれています。
ドウは輪姦され一人の日本兵の耳たぶを食い千切り、その日本兵に銃剣で刺殺されます。

こうして文字にすると、おぞましいですが、映像では勿論直接的な表現はしていません。

日本兵が女性を追い回すのを見ると、弱い者いじめですよ。
銃を持ってる安心感があるんでしょうね。
何かあったらすぐに撃ち殺せますから。
言い訳はいくらでも湧いてきます。

中国人がこれを観て不愉快になり怒りを感じない方がおかしい。
映画の中の立場が逆になれば日本人でも不愉快になり怒ります。
私が観ても日本兵のこの蛮行には怒りが湧いてきます。
人間として当然の感情でしょう。

だからと言ってこれが反日プロパガンダかと言うと、
日本軍の蛮行が在ったか無かったの捉え方の差になります。
私は戦陣訓の成り立ちからもプロパガンダとは思えません。

2-2:
もう一つ反日プロパガンダと思えない理由は長谷川大佐(渡部篤郎)の描写。
「その2」で書いた様に武士道で育てられた武人として描かれているからです。
長谷川大佐も本心では、ウィンチェスター大聖堂の女子修道院の女学生たちを南京陥落記念パーティに連れて行きたくなかったかもしれません。
しかし、上官からの命令ではどうする事も出来ず、女学生たちを憐み二袋のジャガイモを持って来たのではないでしょうか。
最初にウィンチェスター大聖堂を訪れた時に既に決定していましたが、
それでも何とか上官を説得しようとしていたので招待状を渡したのが次に訪れた時になったのかもしれません。

2-3:
更にアメリカ版の初めの方に出て来る文章の一部

Marking an especially dark chapter of human history,
over 200,000 people lost their lives in the
relentless battle for control of the city.

人類史の中で特に暗い一章を残しながら、
南京の支配を巡る情容赦無い戦闘の中で
200,000人以上が犠牲となった。
(私の訳)

まず、ここでは” slaughter; massacre, butcher”等の「虐殺する」という動詞を使っていません。

分詞構文“Marking”の主語を書いてないので、主語は主文の主語”people”=「人々」と同じです。
「人類史の中で特に暗い一章を残し」たのは日本人と言ってません。
日本人だけではなく、中国人も認めたくない事をしてしまった、と言う事です。

2-4:
では、中国人も認めたくない事とは何でしょうか?
普通の人々である売春婦たちが自分達を犠牲にした事、でしょうね。
本来市民を守るはずだった軍が守れなかった。
自分が生きるために他人の命が犠牲になった。
自己犠牲の英雄的行為と言えば聞こえがいいかもしれませんが、残された方の心に傷が付かないはずがありません。

2-5:
ジョンと玉墨(ユー・モウ)(猊妮(ニニ))が結ばれるのは、いかにもハリウッド的で興が冷めます。
しかし、玉墨(ユー・モウ)達のその後の運命を考えると、これも悪くはないのが分かります。
説得力がある脚本です。
張藝謀(チャン・イーモウ)と脚本の劉恒(リュウ・ホン)と厳歌苓(ヤン・ゲリン)の巧さです。

さすが張藝謀(チャン・イーモウ)、抜かりがありません。

2-6:
最後の招き猫の使い方はとても巧い。
中国語を話しているので日本兵は何を言ってるのか分からないから、
無事成功です。


第一弾は、この「その3」で終わりです。


タグ 張藝謀 チャン・イーモウ クリスチャン・ベール 種田陽平 渡部篤郎 半藤一利 昭和史 石川達三 生きている兵隊



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