『菊豆』その4

3:
張藝謀(チャン・イーモウ)の初期の作品は色を演出で使っています。
単純ですが、非常に効果的です。
この『菊豆』でも変わりません。

黄色と桃色を使ってます。
主人公菊豆(チュイトウ、演:鞏俐)の着ている物が筆頭です。

まず、黄色。
菊豆(チュイトウ)の着ている上衣(?)の色。
中国で黄色は『開運!なんでも鑑定団』で出てくる官窯でお馴染み、皇帝初め貴人等、高貴な方の色。

(日本語の「紫」と同じですな。富と権威の象徴であり、聖徳太子が定めた冠位十二階では最高位の色。
また現在では、相撲の最高位の行司の軍配の房の色です)

しかし、現在では「卑猥」や「堕落」を表す色だそうで、日本語の「ピンク」英語の”blue”と同じ。
「高貴」と「堕落」、「卑猥」、「低俗」の二つ正反対の意味を持ってるとは、非常に興味深く、面白い。
楊天青(ヤン・ティエンチン)にとって菊豆(チュイトウ)は殿上人であり、娼婦でもあると言う事です。
「高貴」から考えると、「愛」、「愛情」もあると捉えても問題有りません。
菊豆(チュイトウ)の演出から考えると黄色は楊天青(ヤン・ティエンチン)を象徴する色です。

そして上の「2」で菊豆(チュイトウ)が干している反物の色も黄色です。


次に桃色。
菊豆(チュイトウ)が桃色を着るのは、楊金山(ヤン・チンシャン)に折檻される場面が非常に印象的です。
張藝謀(チャン・イーモウ)の意図であって、我等観客に桃色が楊金山(ヤン・チンシャン)の象徴であると教えてくれてます。
そして便利なネットで中国語での「桃色」を調べると、何と、日本語と同じで「痴情」の意があります。
菊豆(チュイトウ)にとってダンナの楊金山(ヤン・チンシャン)は正に子供を作るだけ、そのためのセックスしかありません。


中国語では…

革命を象徴する赤
忠誠
むき出しの



中国語では…

年齢が若い
青年
打撲などで肌が黒ずんでいる

と言う事なんですが、張藝謀監督は、次のように言ってます。
>“紅”は中国の農民が結婚、出産、葬式など、喜びや悲しみの儀式の時に用いる“感情を表現する色”で、
この映画でもそのように使われています。
一方、“青”は二人の不幸を予感させる色としての役割を担っているわけです。
(『菊豆』のBDのブックレットから)

でも、それだけじゃない様です。

では、
菊豆(チュイトウ)が着ている物を中心に、色の扱いを最初から観ていきましょう。


色の演出その1

まず、
楊金山(ヤン・チンシャン)が着ているのは黒
…さて黒。中国では、
日本語と同じく色の「黒」
その他に、
形容詞として、
秘密の、闇の、
腹黒い、邪(よこしま)の、悪辣だ、

また、連想させる観念が、
犯罪、犯罪者
…腹黒い人間だと伝えていると捉えて間違いでしょう。

甥っ子の楊天青(ヤン・ティエンチン)は白いシャツ
…中国でも色の「白」を表しますが、
葬儀、葬礼を表す形容詞の意もあり、中国ほぼ全域で不吉な色とされている、とか。
…登場人物達の中で不吉な存在であると暗示してる訳です。


3-1:
桃色

5分20秒付近
水浴びをする場面
遠景で撮った2階から現れるカットが最初。
早朝のカットで色が飛び分かりにくいですが、桃色ですね。
ここで楊天青(ヤン・ティエンチン、演:李保田)が覗き見をします。

…まだ叔父の楊金山(ヤン・チンシャン、演:李緯)と同じく菊豆(チュイトウ)をセックスの対象としか思ってないからです。
…だから、張藝謀(チャン・イーモウ)は菊豆(チュイトウ)に桃色を着せた訳です。


3-2:
黄色


7分25秒付近
早朝、楊天青(ヤン・ティエンチン)が叔父の楊金山(ヤン・チンシャン)(演:李緯(リー・ウェイ))に命じられ、
叔母である菊豆(チュイトウ)を起こしに行き、そこで初めて出逢う。
場所は2階。

…最初の出逢いの時から殿上人であり娼婦なんですな、楊天青(ヤン・ティエンチン)にとって菊豆(チュイトウ)は(笑)。
…オマケに場所は2階と地上ではなく、1階分天国に近い場所(笑)。
…こりゃ嵌り、抜け出せなくなる訳です(笑)。
…まぁ、こうやって笑えるのも我等観客は当事者でないからで、当人達にとっては不義密通であり大問題になるんですが、
それはまだ先の話。


最初に出て来る反物の色が白。
まぁ、まだ染める前だから白で当然ですが(笑)、
監督が張藝謀だから見逃す訳には行きません(笑)。

…楊家の商売は染色。
…その一家でやってる物が「不吉」の象徴の色。
…この家族に不吉な事が起こると明示ですな、どう考えても暗示ではないでしょう(笑)。


3-3:
黄色

9分15秒付近
続いて、菊豆(チュイトウ)は黄色い反物を、やはり2階の物干し場で干します。
話が続いていますから当然黄色を着ています。
「2」で書いた通り、それを見上げる楊天青(ヤン・ティエンチン)です。


3-4:


11分丁度
天青(ティエンチン、演:李保田)が染色槽に赤の染料を入れ、混ぜます。

…天青(ティエンチン)は叔父金山(チンシェン、演:李保田)に対し反抗心を抱いてる、と示してます。


3-5:
桃色

11分18秒付近
ダンナの楊金山(ヤン・チンシャン)に折檻される。
菊豆(チュイトウ)が桃色を着て、ダンナの楊金山(ヤン・チンシャン)と一緒にいる最初のシークウェンスです。

…ここで、桃色の意味する事を我等観衆に教える張藝謀(チャン・イーモウ)です。


3-6:
桃色

13分5秒付近
覗き穴を大きくしようとしていた楊天青(ヤン・ティエンチン)をたまたま菊豆(チュイトウ)が見つける。
…楊天青(ヤン・ティエンチン)が菊豆(チュイトウ)を意識していないから桃色です。
…だから突然現れビックリです。
…菊豆(チュイトウ)もビックリ。
これまで楊天青(ヤン・ティエンチン)を全く意識していなかったからで、
ここから意識し始めます。


3-7:
黄色

16分15秒付近
8月15日のお月様のお供え物を準備する場面。
そこで楊天青(ヤン・ティエンチン)と会います。
着ている上衣は黄色。
でも持っている飾りと籠の中の物は桃色。
体に着ける物は黄色で、楊天青(ヤン・ティエンチン)を意識してます。
桃色はダンナの楊金山(ヤン・チンシャン)であって、体面だけの夫婦で世間に対する飾りみたいなものって事ですね。
オマケに飾りだからいつでも捨てられる。

…ありゃりゃ(溜息)。
…この演出じゃ不倫やる気満々じゃん、菊豆(チュイトウ)の方も。
…ここで、楊天青(ヤン・ティエンチン)が菊豆(チュイトウ)の痣を心配し、籠を持ってあげ、
初めて気にかけている事を示し、親切もしてあげました。
…でもですな、背景に遠く霞んでいますが、ハッキリと大きな山を入れ、菊豆(チュイトウ)はその山の方へ帰って行きます。
二人の将来にはこの山の様に大きな障壁がある、大問題が待ち構えてる、と暗示しています。


3-8:
黄色

19分23秒付近
8月15日でのお供え(?、か御馳走)の豚を捌いた後、楊金山(ヤン・チンシャン)がまた菊豆(チュイトウ)に折檻をした後。
2階から菊豆(チュイトウ)が階段を下りてくる場面。
続いて覗き見してる楊天青(ヤン・ティエンチン)に水浴びをする前に裸を見せる。

…菊豆(チュイトウ)はダンナから離れていく場面で黄色を着ていますから、ダンナには愛情を感じてないのは明らかです。


3-9:



23分50秒付近
菊豆(チュイトウ)が金山(チンシェン)に折檻を受けた翌朝、
私は殺されると告白します。

天青(ティエンチン)が干している反物が赤。
それを菊豆(チュイトウ)が掴んで告白しています。
菊豆(チュイトウ)が着ている上衣は青。
既に干してある反物は緑がかっていますが、青と捉えて間違いないでしょう。

…これは明らかに菊豆(チュイトウ)の気持ちを表しています。
…「赤」が象徴する「革命」を望んでいます。

…では、菊豆(チュイトウ)が着ている上衣の色が青。
これは、何を表しているでしょうか?
青を着るのは、ここが初めてです。
…当然ですが、黄色で象徴する事でも桃色で象徴する事でもないと言う事です
…まず思い浮かぶのが上で書いた中国で意味する「打撲などで肌が黒ずんでいる」です。
ダンナから折檻され続け打撲の痕が消えない菊豆(チュイトウ)です。
…と言う事は、単純に「助けて」、「救いと求めている」と捉えて間違いなさそうです。
…二人がいる位置から考えても間違いないでしょう。
(物干し台の上が天青(ティエンチン)、下が菊豆(チュイトウ))
…「ここ以外ならどこでも」と言う菊豆(チュイトウ)の思いでもあり、空(=空色=青)へ逃げていく叶わぬ夢の色、
ダンナから自由になりたい願望の色、
と捉えても無理がありません。


3-10:



26分20秒付近
楊家の馬が倒れ、金山(チンシャン)が獣医師(?)の所へ連れて行く。
ダンナが不在になるので、菊豆(チュイトウ)が天青(ティエンチン)を誘います。
ここでも菊豆(チュイトウ)の上衣は青。

…今がチャ~ンス、助けて、天青(ティエンチン)って事。

そして、髪を後ろで留めている細紐(?)が赤。
…黒髪には目立つ赤。
…後ろに隠していても、嫌でも目立つ「革命への思い」、ですな。

また、嫌に目立つ(笑)赤い肉らしき物を菊豆(チュイトウ)は天青(ティエンチン)の丼へ入れます。
でも、天青(ティエンチン)は食べません。
…覚悟を決めて、「革命」をあんたも起こすのよ、と言う事。
…天青(ティエンチン)は食べないですが、おそらく、色を強調するための物で、
人間には食べられない物ではないかと推測。


3-11:
黄色


28分付近
菊豆(チュイトウ)が煮え切らない天青(ティエンチン)の部屋へ行く。
菊豆(チュイトウ)の着ている服が黄色。
髪を後で留めている細紐(?)の色が赤。

…菊豆(チュイトウ)は天青(ティエンチン)が好きなんです。


3-12:
桃色



28分30秒付近
ダンナが倒れた馬を獣医師(?)の元へ連れてゆき不在で天青(ティエンチン)を誘惑した翌朝、
染色の仕事場で。
朝食を食べる菊豆(チュイトウ)と天青(ティエンチン)。
再び誘惑。
結ばれる二人。

菊豆(チュイトウ)の上衣が桃色。
…菊豆(チュイトウ)の方はやる気満々、怖いもの無し状態(笑)。

天青(ティエンチン)の前掛けの色が赤。
…天青(ティエンチン)は革命(=赤)、つまり叔父楊金山(ヤン・チンシャン)を裏切る覚悟は出来ています。
もうひと押し(笑)。

背景にある染め上った青い布。
…空へ飛んでいく様に現状を脱したい二人の気持ちです。


3-13:


30分付近
結ばれる二人。
菊豆(チュイトウ)が留め具を蹴飛ばし、染色中の赤い布が赤用染色槽へ高速落下。

…求め合う二人の熱情の象徴。
…布が天青(ティエンチン)。
…赤い染色液で一杯の染色槽が菊豆(チュイトウ)。

続いて染め上り、吊るしている赤い布を下から上へ移動して撮影したカット。
…染色槽に落ちた布が染め上り、乾かしている状態ですから、
二人にとっての革命(=赤)が成功したと言う事。






タグ 菊豆 張藝謀 コン・リー リー・パオティエン リー・ウェイ





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好きな監督は黒澤明と張藝謀。
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