★簡単な紹介
○期間
2016年4月2日(土)~7月24日(日)
○場所
世田谷美術館
向井潤吉アトリエ館
HP→
http://www.mukaijunkichi-annex.jp/『美の巨人たち』で
向井潤吉を観た記憶があるので、調べると2004年7月10日放送だった(^_^;)。
速水御舟の「炎舞」、川合玉堂の「鵜飼い」、ブリューゲルの「バベルの塔」、なんかが放送された年なんだぁ…
完全に大昔じゃん(笑)。
NHKEテレの『日曜美術館』で放送されたのが、今年2016年2月21日
(放送分HP→
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/x/2016-04-03/31/3034/1902672/)
初めて行くんでHPの御意見に従い、田園都市線駒澤大学前駅を出ると駒澤大学法科大学院で右折、
その後は道なりに直進、弦巻中学を目指しました。
少々行き過ぎ、戻ろうとすると突風。
すると、満開を過ぎたソメイヨシノが花びらを撒き散らし桜吹雪(^.^)。
突然の歓迎に、良い予感を感じ、少々道を戻りました。
この美術館はその名の通り昭和37年に建てた
向井潤吉の自宅だった建物で、普通の民家で、小さい。
新宿区立佐伯祐三アトリエ記念館並に小さい。
けど、植木も多く中々気持ちいい。
民家のそのもののドアを開け、受付で入場料\200を払い、
なんと、スリッパに履き替えて入ります(@_@)。
いや、「入る」ではなく「上がる」です。
土足厳禁であります。
土足厳禁の美術館、初めてです(^.^)。
1:
いや、驚きました(@_@)。
この
向井潤吉、当然ですが、巧い。
岡倉天心が横山大観、下村観山、菱田春草に湿潤温暖な日本の空気の質感を表現法を考えさせ、朦朧体が生まれました。
それ位湿度に満ちた日本ですが、川合玉堂が「山雨一過」で初夏の雨の後の太陽の輝きを表したように、光を分散させ和らげる湿度が減り光が輝く事も当然あります。
向井潤吉はその光を捉え、表現しています。
明るさや光と言うのは絶対的なものではなく、暗い中にも他よりは明るい所があると言う事です。
それを
向井潤吉は捉え、描写しているのです。
更に、先日上野で観たカラヴァッジョの様に、3Dかと見紛う様な飛び出す絵も描いてます。
技術だけでなく、空間感覚にも大変優れていた絵師であるのが分かります。
カラヴァッジョ並の絵師なんです、向井潤吉。
近付いて見ると光の表現だけでなく、水の表現も、当然ですが、巧い。
今回の企画展の題名から分かる通り、絵に水(川、海、水を張った水田等)入っている物が殆どです。
風景画を描いたことがある方なら分かると思いますが、屋外の水を描くのは非常に難しい。
風により1秒たりとも、同じ表情を見せないからです。
我等素人の好き者は描く場所を表すにはどの瞬間を描けばいいのか、あまりにも変化が早く、激しいので、判断出来ないのです。
状況の判断力が無いんです、我等素人には(涙)。
まぁ、これだと判断出来てもあの形がある様で形の無い水を描けるはずもないんですが(笑)(涙)。
それに、動体視力とか言うヤツも我等素人には無い、劣っている(涙)。
2:
作品の感想など
さて、個人的には海を描いた作品より農家を描いた作品の方が好みに合いました。
だから土蔵1階の展示室Aの作品が良かった。
印象が強かった絵は…
2-1:
展示番号7:早春の水路
埼玉県川越市下新河岸
1982年
驚きましたね。
川縁に生えている雑草の光り輝き(@_@)。
正に生命の芽生えです。
輝く緑色です。
これが飛び出て来る様に見えるんです。
背景の常緑樹と落葉樹の地味でくすんだ重めの色との対比もあるんですが、
非常に新鮮で目にも鮮やか。
そして所々絵具を盛りあげ、そこに照明が当り輝きを見せています。
この近景の雑草だけ艶が出る油を使ってるのかと思いよく見ると、違いますね。
全体に同じ艶になっています。
こんな描き方、技術、素人には見当もつかん(笑)。
2-2:
展示番号10:雨後千曲川
長野県下水内郡豊田村豊津峪
1977年
崩れかけた、崩れつつある、茅葺きの建物。
農家と言うより納屋かもしれません。
この建物の壁の描写が凄い(@_@)。
写真の様な現実感、突出感、存在感。
とにかくこの壁が浮き出て来るんです(@_@)。
壁土で光が当る部分の明るい黄土色、影の部分の褐色と呼んでいい濃い黄土色。
柱の濃褐色。
壁に斜めに置かれた竿とその陰、色は濃褐色。
陰の中の窓が二ヶ所、その桟が風雨で風化し白っぽい褐色、ベージュになっていて存在感が出ています。
全部で5色程しか使ってないのに、この写真の様な写実感(@_@)。
近付いて見ても、特別な技術では描いていません。
違うのは、絵の中でこの壁だけが平面なんです。
ここだけが鋭く、他の部分は曖昧に描いてます。
この壁にだけ光が当ってます。
少なくとも光が当ってるのはこの壁だけだと強調してます。
但し、この茅葺きの建物のすぐ後ろにある柿と思われる落葉樹は鋭い筆使いで描き、近景であると強調しています。
そして、近景、中景、遠景へと向かうに従い物を大きく捉え曖昧さを増し、遠近感、距離感を出しています。
この曖昧さが表わすのが題名からも分かる通り、雨、空気中の水分です。
そしてここにも、雨上がりの光の煌めきと明るさが(^.^)。
素晴らしい絵です。
今回の展覧会のHPとチラシにも目玉として使われているのがこの「雨後千曲川」ですが、
残念ながらこの描写の迫力が全く再現出来ていません。
凄い絵であり、凄い技術です(^.^)。
凄い絵師です、向井潤吉(^.^)。
2-3:
展示番号12:晴映
岩手県上閉伊郡宮守村
1976年
この絵の葉を落した木々が影を落とす農家もすんごい写実感(@_@)。
飛出し、浮き出してくるんです(^.^)。
これもねぇ、どうやってこの現実感、写実感、3D感を出してるのか、分かんないんです(笑)。
ぐっと近付いて見ても、油彩独自の絵の具の伸び、筆使いで特に変わった事はしていません。
まぁ、それが分かればオイラも向井潤吉並の絵師になってますな(笑)。
弱々しいけど明るい早春の光、これを見事に表現してます。
2-4:
展示番号14:水辺の曲り家
岩手県稗貫郡大迫町内川目
1976年
この絵は今迄挙げた3作程の強烈さはありませんが、近付くと向井潤吉の超絶技巧がよく分かります。
画面中央、農家の軒下に薪が積み重ねてあり、その前に若い木が7本程あります。
そして薪の右側に、またしても(笑)、農家の壁が。
絵の中で、この中央の部分だけが、またしても、現実感、写実感、3D感(@_@)。
素人の私にもこの7本程の若木の描写がかなり難しいと分かります。
何と言っても、全体の中でも大変細く、色の面積がとても小さい。
下手に強く描写すると目立ち過ぎ絵のバランスを崩し、絵を壊します。
向井潤吉が細心の注意と集中力で、決死の気合いで描いたのは間違いないでしょう。
2-5:
展示番号15:渡月橋々畔にて
京都府京都市右京区嵯峨
1957年
あの有名な京都嵯峨野の渡月橋です。
有名過ぎ、見慣れ過ぎ、題名と物自体は何の感興も起こさないんですが、
この絵は、何やら視線と心を捉えて離さない魅力があります。
この展覧会で展示された他の作品と違い、タッチが粗い。
荒々しく描いていると言うのではなく、物を細部にこだわらず、大きく塊と捉え描いていると言う事です。
全体の印象、この絵にも光を感じます。
光に満ち溢れているにではなく、暗い中でも光が当ってる所がある、という感じです。
渡月橋の橋桁、橋脚に光りが当ってる部分があり、光の存在、光源が分かるんですが、
どうもそれだけではありません。
それが何なのか分からないし、どう描いたのかも分かりません。
3:
まとめ
穏やかな絵ばかりです。
描いている物は日本独自の自然を添い寝する文化、生活です。
日本の気候風土に合わせ、作られ、工夫発展してきた農業、農家、農村。
西欧文化を取り入れた無理が無いんです。
気候風土に対立するのではなく、合わせていますから自然と言う物に馴染み目に優しい。
そう言った自然の中の一部として農家を描いているのですから、当然穏やかになるでしょう。
向井潤吉の絵に郷愁を感じるのは、普段の生活が日本の気候風土に合わせた自然発生的な生活をしてないからです、
私CYPRESSを筆頭に(笑)。
そして、光の描き方が非常に巧い。
湿度が少なく、光が散乱せず強烈な存在になるのも、確かに美しいです。
しかし多湿のために光りが散乱し朦朧とした存在になっても、光は存在しています。
弱まった光でも、光はやはり光なのです。
その光を向井潤吉は完璧に捉え、描いています。
屋外の自然光の表現では、向井潤吉はクロード・モネより遙かに巧い、
と言いたいとこですが、モネが描いたフランスの光を知らんので、あまり偉そうな事は言えません(笑)。
それでもねぇ、最近来たモネを思い出してみると、絵自体は向井潤吉の方が遙かに巧い。
弦巻中学の桜吹雪の歓迎通り、大変素晴らしい一時を過ごしました。
また、行くゼイ(^.^)。
4:
その他
上に書いた「早春の水路」を初め、向井潤吉は1980年代前半、埼玉県川越市で多くの作品を描いてます。
丁度その頃、私も川越近辺でよく自転車でツーリングをしていました(^.^)。
ひょっとすると、向井潤吉とすれ違ったかもしれないし、同じ景色に心を捉えられたかもしれません。
こういう偶然を「縁(えにし)」と言います。
川合玉堂に続き、またしても素晴らしい絵師との縁を感じ、大変嬉しい(^.^)。
タグ 向井潤吉
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。
ジャンル : 学問・文化・芸術