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『新版 あゝ野麦峠』

★簡単な紹介

朝日新聞社刊

○旧版
昭和43年10月10日第1刷

○新版
昭和47年12月20日第1刷


★評


1:
大変な力作であり、名著。
言葉を奪う事実に満ちた本です。

製糸工場主が過酷な労働条件で年若い工女を働かせ、窃取し贅沢な暮らしをしていた、
と私もこの本を読むまでそう思ってました。

ところが、実際には違いました。

女工哀史」は女工だけではなく、製糸経営者側も「哀史」でした。
儲かった者は誰もいません。


2:
明治になって西欧列強による植民地化を防ぐには外貨を稼ぐ殖産興業が必要でした。
その中でも養蚕と製糸は原料と技術が国内で自給出来たため、国際収支には大変有利で、
全輸出額の内で生糸関係は、明治初年で60%、昭和初期でさえ3割を下ることがなかったとか。
(p.12)

生糸の輸出先はほぼアメリカ(97%)。
(p.345)
アメリカと戦争が始まると、輸出も出来ず、更に工場は軍需工場としてタダ同然で没収。

>それではいったい誰が儲けたのか?…

まるまると太っていったのは、巨大な軍艦だけだった。
(p.346)


3:
女工達にとって糸ひきはどうだったかと言うと、

>これは従来の女工哀史といわれるものにもいえることであるが、青くさい文学青年的発想のセンチメンタルはかえって有害である。
筆者が長年かかって数百人の元工女と話し、考え続けた問題はそこにあるが、知り得た範囲では、従来いわれて来た画一的な<哀史>とはよほど違ったものだった。
(p.336)

山本茂美が取材した580名のお婆たちによると、

総括
行ってよかった:90%
普通:10%
否:0
(p.336)

>家にいたらもっと長時間、重労働をしなければ食っていけなかった。
(p.336)


(病人の扱いについて)
>これはきわめて重要で、当時は周囲がみんなそうだったから、特別に自分が哀史とも感じなかった。
哀史の哀史たる深刻な所以がここにある。
(p.342)

>筆者は、長年この調査をして気付いたことは、工女の故郷で、女工哀史というと一様にけげんな顔をすることである。
彼らは決してそう思ってないのである。人間は比較することだけしか感じることができないものだとしたら、
彼らにとっては哀史どころか、それは生活の一歩前進であったと考えるのも無理ない。
つまりそれは日本農村の底知れない貧しさ、みじめさの象徴であった。
(p.343)


4:
経営者側はどうだったかと言うと、
例えば、山一林組の場合。

昭和2年8月28日、山一林組の従業員一同の労働条件と環境の改善を訴えた嘆願書が林今朝太郎社長に渡す。
要求は聞き入れられず、8月30日、罷業(=ストライキ)突入。
9月17日、争議団、解散。
昭和5年、山一林組、倒産。

この件に関しては、山本茂美は、次の様に書いています。

>したがって山一林組の悲劇は、この<損だもの>という、企業の鉄則を無視した時代錯誤の悲劇と言えないであろうか?
つまりこれは非人道的というより結果的には<時代についていけなかった無知>とでもすべきものだったであろう。
(p.344)


<損だもの>と言うのは労働条件と環境を改善しない事で、
その内容(pp.264~265参照)の中に経営を圧迫するものは、賃上げ、娯楽設備を作る事以外は一つもありません。


5:
とんでもない国際競争の中でなぜ、岡谷の製糸工場だけが生き残ったかというと、

日本有数の大工場の社長であっても、社長室で葉巻をくわえて坐っている社長ではなくて、
みずから工女の先頭に立って働いたからだとか。
(p.328)


6:
女工達の労働条件を改善すれば、工女達ももっと幸せな人生を送っていた可能性もあります。
また、生糸の品質と効率も上がっていた可能性もあります。
戦後70年も経ったこの時代に生きる一人として、私CYPRESSもそう思います。

でも、実際にはそうならず、
>アメリカに生糸を売って、その金でクズ鉄と重油をもち帰って造った日本海軍の象徴(→戦艦大和のこと)は消えた。
(p.367)

日本は現在、家電、車等で欧米では作られなかった高品質、高性能、納得のいく価格で世界経済で生き残ってきましたが、
液晶TV、PC等電子製品では中国と韓国に負けつつあります。
更に従来の製品でも、日本製ほどの高品質ではなくても、平均以上の品質と性能でより低価格の中国製品に負けています。
この低価格の原因が「女工哀史」や『あゝ野麦峠』である可能性もあります。

また、日本で働き国に帰り家を建てられた中国人もいて、これなどは正に「優等工女」、「百円工女」です。
1993年に始まった外国人技能実習制度での低賃金、労働条件の悪さ等は糸ひき工女と変わっていません。


7:
資本主義、自由経済というものは、改めて冷酷、弱肉強食であると痛感しました。

「諏訪千本」と製糸工場の煙突が乱立し、外貨を稼いだ岡谷の製糸産業。
今はその跡形も無い岡谷。
冷酷な事実の前にただ言葉を奪われるだけです。






タグ 野麦峠 山本茂美 女工哀史






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テーマ : 時代小説
ジャンル : 小説・文学

『あゝ野麦峠』

★簡単な紹介

○公開
1979年6月9日

○上映時間
2時間34分

○スタッフ
企画:山岸豊吉
原作:山本茂美
脚本:服部佳
演出:山本薩夫
撮影:小林節雄
照明:下村一夫
美術:間野重雄
音楽:佐藤勝

特殊機械:河原忠敬
方言指導:水梨民子、吉原正皓
ナレーター:鈴木瑞穂

プロデューサー:持丸寛二、伊藤武郎、宮古とく子

○出演
大竹しのぶ…………政井みね、百円工女
地井武男……………政井辰次郎
西村晃………………政井友二郎
野村昭子……………政井もと
渡辺由光……………政井菊五郎

原田美枝子…………篠田ゆき、優等工女
友里千賀子…………三島はな

小手川祐子…………庄司きく
福原秀雄……………きくの父親

浅野亜子……………平井とき、太目、不器用

三國連太郎…………足立藤吉、山安足立組社長、養子
斉藤美和……………足立とみ、藤吉の妻
森次晃嗣……………足立春夫、藤吉の息子
赤塚真人……………川瀬音松
小松方正……………金山徳太郎
長浜藤夫……………山安足立組の守衛
山本亘………………野中新吉、山安足立組の帳簿係
三上真一郎…………黒木権三、山安足立組の検番


江幡高志……………丸正の検番

平田昭彦……………伏見宮殿下
三条泰子……………伏見宮妃殿下

岡本茉利……………久保えい
黒川明子……………杉山みつ
志方亜紀子…………荒井たみ
今村文美……………山村さわ
中原早苗……………石部いわ
津田京子……………木谷やえ
采野圭子……………井上まさ
石井くに子…………松本さだ、敵役、山安足立組寄り密告者


北林谷栄……………お助け茶屋の鬼婆さ




★評

かなり前に「新版『あゝ野麦峠』」を買い、最近読み始め、
映画の方も久し振りに観たくなり調べると、
1980年4月9日(水)にNTV系の「水曜特別ロードショー」で放送されたとか。
これを観ましたナ。
更に調べると、テープで市販された事無し(@_@)。
オマケにDVDで2014年4月16日に発売されるまで、ヴィデオグラム化無し(@_@)。

どうりでレンタル屋さんで借りて観た記憶がないはずダワ。
Amazonとかの有料、無料配信も無いんで、買っちまったゼ。

ところで、
野麦峠と言えば、この映画が公開された1979年に自転車で越えたなぁ…(遠い目)
ツーリングで新宿から国道20号線を進み、塩尻まで行き、国道19号線へ入り木曽福島へ。
そこから国道361号線(木曽街道)へ入り開田高原、長峰峠を経由して高山。
高山から安房峠を越えて上高地へ行くはずが、安房峠が土砂崩れで通行止め。
仕方が無いんで野麦峠経由で上高地へと向かいました。
安房峠、1790m。
野麦峠、1672m。
標高を見ると野麦峠の方が低いんですが、確か1979年は野麦峠は峠付近を初め舗装されてなかったので、
安房峠を選んだと思います。
上高地からは野麦街道(国道158号線)へ下り、松本へ行きました。
考えてみると、飛彈の糸ひき工女達と同じ道を、自転車とは言え、同じく二本足で辿ったんですなぁ…(またしても、遠い目)
あ~、勿論、夏ですよ、あんな積雪がある所、自転車で通れるはずありません(笑)。


36年振りに観ると…


1:
映画では野麦峠で撮影もしてるんですが、全く覚えてない(笑)。
自分じゃ写真も一枚も撮ってなし(笑)。
オマケに越えた日は雨だったから、覚えてなくて当然か(笑)。
晴れていると北に乗鞍岳、南に御嶽山の絶景の素晴らしい所らしいけど、
雨で何にも見えず、これも雪の日を越えた糸ひき工女達と同じ。
峠の「お助け茶屋」らしき所で工女達と同じく休憩し、何か食べ飲んでるんですが、これも記憶も記録も無し。


2:
脚本は原作を巧くまとめてあり、2時間半の上映時間中、中弛み無し。
大竹しのぶ演じる政井みねを初め登場人物に感情移入しやすい。
全体の出来はとてもいい。

但し、
原作の半分、つまり、工女の悲劇の部分しか描いてません。
検番や男工等の男衆、工場主や社長の悲劇を描いていません。
男達が女工を酷使し搾取して贅沢をしていた訳ではありません。
また、女工の仕事確かに過酷でしたが、山本茂美が取材した580名の元工女のお婆によると、

実家の農業より苦しいが3%
普通が70%
楽が22%

賃金では、
他より低いが0%
普通が30%
高いが70%

食事では、
マズイが0%
普通が10%
美味いが90%

病気に関しては
冷遇が40%
普通が50%
厚遇が10%

(『新版 あゝ野麦峠』p.337 飛彈の糸ひき後日調査 から)

長時間労働は農業と変わらず、賃金は遙かに良く、食事も白米を食べられ良かった。
病気に関してもペニシリンやストレプトマイシンを初め抗生物質が実用化されるのは1942年以降なので、
金が有ろうが無かろうが関係なかったんです。
政井みねが結核で倒れ隔離されるのも、製糸工場だけではなく、農家でも同様にされていたでしょう。

2-1:
冬山のロケ地は雪不足のため、何と、北海道富良野の十勝岳まで行ったとか。
吹雪の野麦峠のシークウェンスを初め、雪山を工女達100人以上が進むカットは中々の出来。
当時に実際もこうだったんでしょう。
ただ、夜間の松明を持って進むカットは松明が多過ぎ。
原作によると3~5人に付き一本だったそうです。

製糸工場内のセットも見事。
特に糸枠に巻き取ってある絹糸は色艶から本物の絹糸に間違い無し。

2-2:
ただ、気になるのは、

音楽がうるさい。
全体に大袈裟で、余りに感情的。
古臭い演出法になってます。
特に冒頭の音楽は大袈裟で悲劇を煽り過ぎ。

当時の「諏訪千本煙突」は現在全く残っていないので、
製糸工場群を遠景で撮るにはミニチュアセット意外に当時は無し。
で、このミニチュアが、ショボイ(溜息)。
天竜川の水力を繰糸機械に利用していたので、天竜川沿いの設定なんですが、
この水の表現がダメ。
重量感が全く無い(溜息)。
また、煙突から流れる煙も軽過ぎて、素早く動き過ぎ(溜息)。

音声に関しては、工場内の板床(→「フローリング」なんてお上品な物ではありません(笑))の上を走る時の音が、
モノラルなのでイマイチ。
また機械の騒音も大人し過ぎるし、そのために臨場感がありません。
そう思うのも最近の記録容量が増えたDVDやBD、地デジを見ているから。
それでもね、工女達が走り回る時の床の立てる音、5.1chで聞きたいよねぇ。


3:
役者、
これは、断トツに大竹しのぶ
素晴らしい。
12歳から20歳までを演じてるんですが、
最初の新工(=しんこ、新人の女工)では、どう見ても少女(@_@)。
場面と共に時間も進み、大人の女の顔に変わって行っている(@_@)。
1957年生まれだから撮影当時は21歳。
現在の20歳前後で12歳を演じられる女優、男優はいるでしょうか?

篠田ゆきを演じた原田美枝子には、驚いた。
最近はキレイなオバサンなんだけど、この頃は『北の国から』の涼子先生初め、
エラく色っぽい、艶っぽい。
この映画だと山安足立組の若社長足立春夫(森次晃嗣)を誘う時の両目の表情なんか、たまらん(笑)。
嵌ってるなぁ。
『リップスティック』の池脇千鶴、『世界の中心で、愛をさけぶ』の綾瀬はるか、と同じく嵌ってるとしか思えん好演。
男優と違い、女優は役に嵌る事があるね、特に若い頃は。


4:
このDVDで秀逸なのは特典の静止画に収録されたパンフレットとチラシ。
文章を大きく写し、全て読めます(^.^)。
これは大歓迎(^.^)。






タグ 大竹しのぶ 原田美枝子 山本茂美 野麦峠 森次晃嗣 地井武男 三國連太郎






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CYPRESS

Author:CYPRESS
最近好きな女優は杉村春子と中谷美紀。
好きな監督は黒澤明と張藝謀。
気になる監督は堤幸彦。
山田孝之の実力が分かってきました。

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