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吉永小百合版『愛と死をみつめて』その2

この『愛と死をみつめて』は私の映画やドラマの原点なので、
吉永版映画を久し振りに観てみました。

以前他のブログ(“大スキ! 広末涼子さん&『ビーチボーイズ』”等)に色々書き込みましたが、
無くなっているので改めて観た訳です。

Amazonではこの映画もエラく高評価ですが、私にとってはやはり駄作でした。
今回は少し細かく観てその原因を探りました。


★簡単な紹介

○公開
1964年9月19日

○上映時間
1時間57分

○スタッフ
原作:河野實大島みち子愛と死をみつめて』、『若きいのちの日記』
脚本:八木保太郎
演出:斉藤武市
撮影:萩原憲治
照明:大西美津男
音楽:小杉太一郎
企画:児井英生

○出演
吉永小百合(小島道子)
浜田光男(高野誠)
笠智衆(小島正次)
内藤武敏(K先生)
宇野重吉(中山仙十郎)


★評

1:
最初のタイトルロールで流れる主題歌『愛と死のテーマ』がいかにも悲劇ですよと伝える音楽で、大袈裟で困ります。
幸先悪いね、何回観ても(溜息)。

ところでタイトルロールのバックに映るテーブルセンターはミコさんが作った物に似てますが(→初版『愛と死をみつめて』p.200)、
違う物ですね。
映画の後の方で出てくる物です。

続いて出る学生寮が「信州寮」。実際は「信濃寮」

2:
22分の所で病巣図が出て来ますが、出版物で載っている物は初版の『若きいのちの日記』(p.222)のみ。
現行版で載っている物は、残念ながら、有りません。
映画の方は主治医が大手術をする前に道子のお父さんと誠に病気を説明するための図ですから、当然『若きいのちの日記』の物とは違います。
『若きいのちの日記』の方は死亡後に作られましたから、眉間、おでこの方まで病巣が広がってます。
映画の方は原作に基づいていますので、原作の「第4回(37年7月)発生個所」まで、顔の左半分を失う前の状態になっています。
ちゃんと手を抜かずに出来ていて好ましい演出です(^.^)。

3:
44分の所、道子が個室から4人部屋に映った場面。
ネズミが病室に出現。
本当に当時の国立大学大学病院、しかも日本第二の都市の病院で?
この演出は、現実的なのか、誇張なのか、どっちなんでしょう?

4:
1時間14分の所で、何と、道子のお父さん正次を演じる笠智衆が、涙を落とすんです。
その昔、NHKの笠智衆スペシャルで「日本の男は泣かないんです」と言っていた笠智衆が涙を落としました。
命の短い自分の娘が他の元気な若い女性の様に新しい洋服を着て喜ぶ姿を見て涙を落とす正次。
この軽い衝撃は笠智衆がどういう役者で、男だったか知ってる40年以上昔の我々だから分かる事。
上映当時より現在の方が、人々の心を打つんではないでしょうか?
ここはいい所です。
父親の娘への愛情が分かりますし、その原因になった軟骨肉腫の「強さ」も分かります。

5:
1時間15分から道子の軟骨肉腫による苦痛を直接描き始めます。
ここではそれだけでは足らない様で、ベッドに横たわる道子に足の方から照明を当て、表情を殺すのと同時に顔色の悪さも表し病状の進行を表しています。
ハッキリ言って、非常に趣味が悪い演出です。
それから1時間41分の所。誠が電話で『禁じられた遊び』を弾き、聞いていた道子が頭痛に襲われ倒れる場面。
病院の廊下で患者が苦痛で倒れたら一大事でしょう。
道子の病状の状態が分かっていたはずですから、主治医から看護婦に様子を常に窺う様指示が有ると捉えるのが妥当だと思います。
電話の有る場所が看護婦詰所(=最近の言葉だとナースステーション)の前だから看護婦が直ぐに出て来て大騒ぎにならなければ、おかしい。

6:
逆に、軟骨肉腫の恐怖の方を全編に亘りどこにも、直接的にも、間接的にも全く描いていません。
監督や脚本家が頭を使って捻り出さなきゃならん事をやってないんです。
それがハッキリ分かるのが道子を演じる吉永小百合の表情。
自分の病状がいかに重大か分かる場面、顔の左側半分を切り取ると聞かされた後の表情が無表情になるのは問題有りません。
問題はそれ以降。
一人になり物思いに耽る様な場面でも無表情なんですが、主治医のK先生から顔を半分失う事を聞いた時と変わってません。
徐々に死に近付いているんですから、やはり表情に変化が欲しい。恐怖の蓄積とも言うべき経験をするんですから、どんな人間でも恐れおののくでしょう。
斉藤武市監督の指示か、吉永小百合の演技の限界か、この点は不明。
そしてもう一つが誠役の浜田光男
この誠の表情もおかしい。
笑い過ぎ。
恋人が死と添い寝しているのに、なんであんなにいつも笑顔でいられるんでしょう?
恋人と一緒にいられて楽しいのは分かりますが、死の存在の重みに気付くことが有るんですから少なくともその重さにため息を吐く位の事が有るはずです。
一番おかしいのが終盤、誠が道子の顔を剃り、爪を切る場面。
あそこで満面の笑みは、究極の理想論で有り得ないでしょう。
死神が最後の一撃を振るう準備をしているのが見える時に、恋人のために笑おうとしても満面の笑みになるはずがありません。
有るとしたら、保険金目当てか、遺産目当てでしょう(笑)。
誠の方は、斉藤武市監督の指示の様な気がします。

この場面は、広末版では極めて真っ当に描いています。

7:
この様に軟骨肉腫と死の恐怖に恐れる演出をしてないので、
道子が明るく振舞っていても単なる明るい性格のお嬢さんにしかすぎません。
原作では道子に当たるミコさんが普通の人の様に死を怖がります。
それでも恐怖に耐え、戦い、明るく振舞っていました。
強い心を持っていた方だとも分かります。

この点は誠の描写も同じです。
原作ではマコさんはかなりミコさんに励まされています。
何とか死の恐怖に勝っていました。

映画ではこの様な演出不足ために、二人の愛情や絆の強さ、深さも十分に表現出来ていません。

8:
吉永と浜田の演技で不満なのは、恋人同士の親密さが無い事。
腕を絡ませ、笑顔でいるだけではダメなんです。
親密な雰囲気が無いんです。
これは二人の演技力の限界です。

9:
二人の思いを表せない原因のもう一つが道子が大阪の病院に入院し、誠が東京で暮らしている事、
つまり東京と大阪の距離感が皆無である事。
当時の東京大阪間は、現在の成田とシンガポール位の隔絶感が有ります。
しかも誠は裕福な家庭の出ではないのに、あまりにも簡単に大阪と東京を往復し過ぎています。

10:
この隔絶感を埋め、二人の愛情、絆、そして情熱を表すのが400通余りの手紙なんですが、
これまた演出に使われていません。


とまぁ、主な欠点を書いてみました。

11:
いい所は、まぁ、3回入る信州の山のカット。
これはかなり重い内容を中和していて、かなり効果的です。
そして、当時19歳の吉永小百合の美貌。透明感、清潔感、清涼感に満ちた美貌。
この映画の中に信州の山や清流の様な涼やかな美貌です。
「サユリスト」が未だに存在するのも納得。


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